生の体験が、未来を拓く力になる 〜あたま・からだ・こころを育む時間〜
生の体験が、未来を拓く力になる
〜あたま・からだ・こころを育む時間〜
《汐見稔幸先生・藤波辰爾さん・木村あゆみ先生 トークセッションより》
保育とプロレスが出会った特別な講演会
保育業界とプロレス界という、一見かけ離れた世界が交わる機会が訪れました。
講演会のタイトルは『今、”からだ”から 保育・子育てを考える2025』。
静岡県保育士会の総会で、新会長へのお祝いの花束として企画されたこの講演会は、まさに22年ぶりの再会が実現した感動の場でもありました。
実はこの場の実現には、私・松原の夫である北山が裏で動いておりました。
プロレスファンの皆さんにはたまらない顔ぶれがそろい、そして子どもたちと一緒に遊び込める園庭づくりを全国で手がける、木村あゆみさんが素敵なナビゲーターとして登壇してくださいました。
テーマは「子ども・保育・そして体を使うことで開かれる感性と知性」。
今の保育に必要な視点が、たくさん詰まった時間となりました。
心に残った、たくさんのキーワードたち
今回のトークセッションでは、多くの学びや気づきを得ることができました。
ここで印象に残った言葉たちをご紹介させていただきます。
-
「改善するのではなく、撤去する」風潮。本当にそれでいいのでしょうか?
-
「ちょっとしたケガはしてもいい」
→ 子どもが何かあったとき、「どうしたの?」と振り返って学ぶことが大切。 -
どうすればケガを減らせるのか?
→ 子ども自身が油断しないような、緊張感のある環境づくりがポイント。自分で気をつける力を育てることが大切です。 -
自然の中で、感性は育まれる
→ 田植えの時期に聞こえるカエルの声、風の匂い、足裏で感じる泥の感触…五感をフルに使う体験が子どもにとっては宝物です。 -
幼児期にこそ、身体のいろいろな部位を使う経験を
→ 感性が豊かに育ちます。
社会には正解がない。だからこそ育てたい「非認知能力」
学校で学んだことの多くは、社会に出てからあまり使わないという現実。
それは、学校教育が「正解のある問題」をベースにしているから。しかし社会に出ると、正解のない問いに向き合うことの連続です。
そんな「正解のない世界」で力を発揮するのが、非認知能力です。
保育園とは「世界とつながる場所」
保育園は、子どもたちが感性を豊かにし、世界とつながっていく場所。
そのためには、経験をたくさん積ませてあげることが何より大切です。
アメリカの教育学者エドガー・デールの「経験の円錐」でも示されているように、体験を通じて得た学びは、理解も深く、安定感があります。直接経験が多いほど、子どもたちは安心し、深く物事を理解していけるのです。
子どもたちに身につけてほしいこと、それは以下の3つ。
-
危険を察知する「あたま」
-
危険を回避する「からだ」
-
冷静に行動する「こころ」
そのためには、「うまくいかない経験」も必要です。
転んだり、失敗したり、悔しい思いをしたり…そんな経験こそが、学びの源になります。
免疫細胞が大腸で作られるように、外からの刺激や経験が、内側からの力を育てていくのです。
感じる力が、知性とつながる
感性とは、「感じる力」。
この感性を鍛えることで、知性とも深くつながっていきます。
たとえば数学。計算だけが数学ではなく、「なぜ?」「おもしろいな」と感じることから、芸術や美学にも通じる世界が広がっていきます。
園庭を「大人から見渡せるように設計する」ことは、本当に子どもにとって良いことなのでしょうか?
見えるから安心。監視できるから安全。
そう思いがちですが、大切なのは「監視」ではなく、子どもが自らの身体感覚で「気をつけよう」と意識する環境づくり。
木村さんが10年かけてつくりあげてきた園庭では、あえて動線を絞ることで、子どもたちが自然と意識を持つようになります。
その「忙しい意識」が、結果的にケガを減らすのです。
便利さの裏にある“失うもの”と、生の体験の価値
便利になることによって、失われていくものがあります。
それは、身体を通して得る生の体験であり、「感じる力」であり、「自ら選ぶ力」。
この「生の体験」こそ、今の私たちにとって、そしてこれからの人類にとって、大きな意味を持つ課題であると感じます。
今回のトークセッションは、まさに今私たちが取り組んでいる「子ども安全検定」の想いと重なるものでした。
保育の現場で、子どもたちが自分でチャレンジし、学び、育っていくためには、大人側がその土台を整えておくことが必要です。
それを支えるために、この検定を通じて「安全」を仕組みとして共有できるようにしていきたいと考えています。
木村さんからは、「最低限、知ってて当たり前のことだよね」という言葉をいただきました。でも、その“当たり前”を言葉にして共有するのって、意外と難しいんですよね。
だからこそ、丁寧に言語化し、わかりやすく届けたいと思っています。
新しい挑戦には、新しい学びが必要
汐見先生からは、「イギリスの保育評価基準を研究している方の本を読んでみて」とアドバイスをいただき、早速購入しました。
新しい挑戦には、新しい学びが必要。
その学びを通して、自分自身も成長できると感じると、ワクワクしますね。
これからも、どんどん吸収していきたいです。
藤波さんが、こんなことをお話しされていました。
「子どもが転んだとき、つい手を差し伸べたくなるけど…そうすると子どもって泣いちゃうんですよね。でも奥さんが、朗らかに笑い飛ばすと、子どももケロッと立ち上がるんです。どういう姿勢で見守るかって、本当に大事なことですよね」
この言葉に、とても深く共感しました。
それぞれの立場から語られた「子どもを信じて、育ちを支える」という想い。
保育も、教育も、家庭も、地域も。すべての大人が少しずつ意識を変えていくことで、子どもたちの未来はもっと輝いていくのだと思います。
今回の学びを胸に、私自身も、これから出会う子どもたちに向けて、できることを積み重ねていきたいと、改めて感じました。