「先生、きょうもおこってる?」~子どもたちの言葉が教えてくれた、保育現場の見えない問題

4歳児の純粋な疑問が突きつけた現実

「先生、きょうもおこってる?」

ある日の朝、4歳のゆうちゃんが私にそっと聞いてきました。その小さな声と不安そうな表情に、私は胸がぎゅっと締め付けられました。子どもたちは大人が思っている以上に、周りの空気を敏感に感じ取ります。大人同士のギクシャクした関係、誰かが誰かに対して放つ冷たい態度、そして何より、「怒り」という感情が支配する職場の雰囲気を、子どもたちはしっかりと見ているのです。

「技術」だけでは測れない保育の本質

保育園の評価というと、どうしても「保育技術」「専門知識」「設備の充実度」などに目が向きがちです。しかし、本当に子どもたちの心に寄り添い、健やかな成長を支える保育には、もう一つ重要な要素があります。

それは、**「職場の人間関係が醸し出す空気感」**です。
子どもたちは言葉にできなくても、以下のような大人の関係性を敏感に察知しています。

緊張感のある職場で育つ子どもたち

  • 大人の顔色をうかがう癖がつく
  • 自分の気持ちを素直に表現しにくくなる
  • 失敗を極度に恐れるようになる
  • 友達同士でも攻撃的な言葉を使うことが増える
  • 新しいことへの挑戦意欲が削がれる

温かい関係性に包まれて育つ子どもたち:

  • 安心して自分らしさを表現できる
  • 困った時に素直に「助けて」と言える
  • 失敗を恐れずチャレンジできる
  • 友達に対しても思いやりを持って接する
  • 豊かな創造性と好奇心を発揮する

この違いは、保育士の個人的なスキルとは別次元の問題なのです。

「愛情」という名の勘違いが横行する現場

「愛情があるから厳しくする」
「子どものためを思って言っている」
「昔からこうやって育ててきた」
こうした言葉を盾に、保育現場では長年にわたって「指導」という名のハラスメントが見過ごされてきました。

よく聞かれる「愛情」を理由にした言動

  • 「何度言ったらわかるの!」(感情的な叱責)
  • 「○○先生を見習いなさい」(他者との比較)
  • 「あなたには向いていないんじゃない?」(人格否定)
  • 「私たちの時代はもっと厳しかった」(時代錯誤の押し付け)
  • 無視や冷たい態度(感情的な制裁)

最新研究が示す驚きの事実

近年の脳科学研究により、「心理的安全性」が人間の能力発揮に与える影響が科学的に証明されています。

心理的に安全な環境にいる人の脳では、創造性を司る領域が活性化し、学習能力や問題解決能力が向上します。さらに、ストレスホルモンの分泌が抑制され、免疫力も向上することが明らかになりました。
一方、常に緊張や恐怖にさらされている環境では、脳の防御反応が優先され、本来の能力を発揮することができません。これは保育現場においても同様で、職員が安心して働ける環境かどうかが、保育の質に直接影響するのです。

保育現場での「心理的安全性」とは

保育現場における心理的安全性とは、職員一人ひとりが安心して働ける環境を指します。

職員同士の関係性では、失敗を責めるのではなく一緒に改善策を考え、分からないことを気軽に質問でき、異なる意見を尊重し合えることが大切です。お互いの良いところを認め合い、困った時には自然に助け合える文化があることで、職場全体の雰囲気が向上します。

この環境は子どもたちにも大きな影響を与えます。大人同士が互いを尊重し合っている姿を見た子どもたちは、自分の気持ちを安心して表現し、新しいことに積極的にチャレンジできるようになります。失敗を恐れずに挑戦し、大人に対して信頼感を持ち、友達同士でも思いやりを持って接するようになるのです。

保護者が本当に求めているもの

保護者が保育園を選ぶ際、設備の新しさや保育士の資格だけでなく、もっと本質的な部分を重視してすることもあります。

大切なのは、子どもが毎日楽しそうに通っているかどうかです。また、保育士の先生たちの表情が明るく、職員同士の関係が良好で安定していることも重要なポイントです。子どもの個性を尊重してくれるか、何かあった時に相談しやすい雰囲気があるかも、保護者が注目している点です。

これらすべては、保育園の「心理的安全性」と密接に関わっています。職員が安心して働ける環境があってこそ、保護者が真に求める保育が実現できるのです。心理的安全性の確保は、職員の働きやすさだけでなく、子どもたちの健やかな成長と保護者の安心につながる、保育園運営の根幹となる要素なのです。

子どもたちの笑顔のために

冒頭のゆうちゃんの言葉を思い出してください。「先生、きょうもおこってる?」
この純粋な疑問に、私たち大人はどう答えるべきでしょうか?

子どもたちが安心して過ごせる保育園。職員がお互いを尊重し合える職場。保護者が信頼して子どもを預けられる環境。これらすべてを実現するために必要なのは、正しい知識と適切な技術です。

ハラスメントのない職場環境は、一人ひとりの意識変革から始まります。まずは自分自身の言動を振り返り、正しい知識を身につけることから始めませんか?
子どもたちの輝く笑顔と健やかな成長のために。そして、保育という素晴らしい仕事に誇りを持って取り組むために。今こそ、行動を起こす時です。

明日、ゆうちゃんが「先生、きょうもえがおだね!」と言ってくれる日を目指して、一歩を踏み出しましょう。

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https://hoiku-communication.com/harassment_online_info2025/

🌿担当講師:松原美里

北海道網走市生まれ。横浜女子短大 保育科を卒業。

保育士資格・幼稚園教諭二種免許取得。

横浜市の保育園~川崎市の児童養護施設にて保育に携わる中で、

子どもにとって大切な存在である親のサポートの必要性を感じ、退職。

「大人が輝く背中を見せる」ことの重要性を感じてコーチング(米国認定コーアクティブコーチ資格)・

心理学・NLPを学び、2007年よりUmehanaRelationsを設立する。

保育の視点を子育て支援に生かすAllAbout「育児の基礎知識」ガイドのほか、子育て支援講座、監修・三幸学園千葉校にて、保育原論・児童心理学等を担当。

大阪での虐待事件の背景に、「一番近くにいる保育士にこそ、コーチングを役立ててもらいたい」と、2008年より保育士向けコミュニケーション講座を定期的に主催。

幼稚園での保護者対応研修・広島での保育士研修・島根県での再就職支援講座等を皮切りに、講師としての活動を開始する。

2011年~2016年までエクレス保育園~認定こども園エクレス保育園部施設長。

2019年より保育コミュニケーション協会 代表。保育士キャリアアップ研修マネジメント等担当。