保育現場の”その一言”、実はハラスメントかもしれません~あなたの職場は大丈夫ですか?

先日、とある保育園の主任保育士Aさんから相談を受けました。

「新人の先生に指導をしているんですが、最近その子の表情が暗くて…。私の言い方がきつすぎるのかもしれません。でも、子どもたちの安全に関わることだから、しっかり伝えないといけないと思うんです。どこまでが指導で、どこからがハラスメントなのか、正直わからなくて…」

この相談を聞いて、私は多くの保育現場で同じような悩みを抱えている方がいるのではないかと感じました。

保育現場に潜む「見えないハラスメント」

保育という仕事は、子どもたちの命を預かる責任の重い職業です。そのため、「厳しい指導は当たり前」「昔からこうやってきた」という風土が根強く残っている職場も少なくありません。

でも、ちょっと立ち止まって考えてみてください。

「後輩・職員に教えてあげたいけれども、言い方によってはパワハラと誤解されてしまうかも…」
「どこからどこまでが、ハラスメントなんだろう…」
「あの人のかかわり、ちょっと気になるな…」
「今まで我慢してきたけど、もしかして…これって、ハラスメントでは?」
「なんとなく今までは黙認されてきたけれども、これからの時代、それではいけないような気がする」

こんな風に”ハラスメント”が気になっている方も、きっといらっしゃるのではないでしょうか。

実際に起きている保育現場のハラスメント事例

<事例1:新人保育士のBさんの場合>

入職3ヶ月のBさん。毎日の業務に必死についていこうとしているものの、ベテラン保育士から「そんなこともできないの?」「昨日も同じこと言ったよね?」と人前で注意され、次第に職場に行くのが辛くなってしまいました。

<事例2:中堅保育士のCさんの場合>

5年目のCさんは、園長から「あなたはいつも要領が悪い」「他の先生を見習いなさい」と頻繁に言われるようになりました。同僚の前で比較されることも多く、自信を失ってしまい、最終的に転職を考えるようになりました。

<事例3:主任保育士のDさんの場合>

責任感の強いDさんは、部下のミスに対して「なぜこんなこともできないの?」「子どもたちに申し訳ないと思わないの?」と感情的になってしまうことがありました。指導のつもりでしたが、部下からは「怖くて相談できない」と言われてしまいました。

これらの事例、どれか一つでも心当たりはありませんか?

そもそも「ハラスメント」とは何なのか?

言葉が一人歩きしているところもありますが、そもそもハラスメントとは何を指すのでしょうか?
ハラスメントの定義として、職場などの人間関係において、相手の意に反して不快・苦痛を与える行為を指します。
ここで重要なのは、加害者にその自覚がなくても、被害者が「つらい」「困っている」と感じれば、ハラスメントと見なされる可能性があるということです。

つまり、「指導のつもりだった」「愛情を込めて言った」という理由は、ハラスメントを否定する根拠にはならないのです。

職場におけるパワーハラスメントの3要素

厚生労働省による定義(職場におけるパワハラ防止法)では、特に「職場におけるハラスメント」として、以下のような要素が定義されています。

◆ パワーハラスメントの3要素

  1. 優越的な関係を背景とした言動
  2. 業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの
  3. 労働者の就業環境を害するもの(身体的・精神的苦痛)

これらをすべて満たすと「パワハラ」として認定されます。
保育現場で考えてみると、先輩・後輩の関係、主任・一般保育士の関係など、様々な場面でこの「優越的な関係」が存在していることがわかります。

保育業界のハラスメント研修の現状

保育コミュニケーション協会代表の松原が保育業界のハラスメント研修に関わるようになったのは、実は2017年からです。
その時期より厚生労働省の指定ハラスメント研修を受講し、情報収集と研修実施を重ねていく中で、保育業界には昔ながらの「当たり前」の嫌がらせや八つ当たりが、暗黙の了解として浸透している風土もあることが分かってきました。

「私たちの時代はもっと厳しかった」
「これくらいで音を上げるなんて根性がない」
「愛のムチよ」

こうした言葉を聞いたことはありませんか?
確かに、以前は「厳しい指導」として受け入れられていた言動も、現在の基準では明らかにハラスメントと判断されるものが多く存在します。時代とともに、働く人の権利意識や人権意識も変化しているのです。

ハラスメントがもたらす深刻な影響

ハラスメントがいけない理由は、職場の士気を下げるためだといわれています。
しかし、保育現場でのハラスメントの影響は、それだけに留まりません。

立場の強い人が大きな声を出したり、気分でドアをバンと閉めたり、八つ当たりをする場面に遭遇する中で、保育者自身がのびのびと子どもに向き合うことができず、いつも誰かの目を気にしておびえており、活発な意見交換に至らず、大人都合の(子ども優先ではない)保育が展開されてしまうことがあります。

具体的な影響例

  • 保育者が萎縮し、創造性豊かな保育活動ができなくなる
  • チームワークが悪化し、連携が取れない
  • 情報共有が不十分になり、事故のリスクが高まる
  • 保育者の離職率が上がり、子どもたちとの継続的な関係が築けない
  • 職場の雰囲気が悪化し、それが子どもたちにも伝わってしまう

それでは質の高い保育からはほど遠くなってしまうのではないでしょうか。

よくある「無自覚ハラスメント」パターン

パターン1:比較による指導 「○○先生はちゃんとできているのに、なぜあなたはできないの?」

パターン2:人格否定を含む指摘 「あなたって本当に要領が悪いわね」

パターン3:感情的な叱責 「何度言ったらわかるの!」(大きな声で)

パターン4:無視・孤立化 特定の職員だけに情報を伝えない、挨拶を返さない

パターン5:過度な管理・監視 「あなたは信用できないから、すべて報告して」

これらの行動、心当たりはありませんか?

「指導」と「ハラスメント」の境界線

多くの方が悩むのが、この境界線です。

ハラスメントになりがちな「指導」の特徴

  • 感情的で威圧的
  • 人格攻撃を含んでいる
  • 人前での叱責
  • 改善の方法を示さない
  • 相手を萎縮させる

以下の項目に当てはまるものはありませんか?

□ 職員同士の会話が少ない
□ 意見を言いにくい雰囲気がある
□ 特定の人の機嫌に職場全体が左右される
□ 新人がすぐに辞めてしまう
□ 「昔からこうだから」という理由で変化を拒む
□ 人前で叱責される場面をよく見かける
□ 職員同士で愚痴や悪口が多い
□ 休憩時間でも緊張感が抜けない
□ 管理職に相談しにくい
□ 職員の体調不良が多い

3つ以上当てはまる場合は、職場環境の見直しが必要かもしれません。

ハラスメント研修で得られること

ハラスメントの研修受講を通して、以下のような自分になることを目標としています:

✅ 正しい知識の習得 自分では”指導”のつもりが、ハラスメントと受け取られる可能性に気づける

✅ 自分の関わり方を見直す視点 「つい言ってしまう言葉」「距離感のとり方」などを振り返るきっかけになる

✅ 対話力・伝え方の工夫 相手を尊重しながら”伝える”技術と姿勢を学べる

✅ チームづくりへのヒント 心理的安全性のある保育チームをどう築くかを考える

✅ トラブル対応の視点 実際に問題が起きた時の適切な対応方法を学べる

🌱こんな方におすすめです

  • ハラスメントが気になっている人 「もしかして…」と感じることがある方

  • 自分もそうなのではと感じている人 無自覚に相手を傷つけてしまっているかもしれないと不安な方

  • 気がついていない人への対応の仕方に悩んでいる人 周りの人の行動が気になるけれど、どう対処していいかわからない方

  • 職場の雰囲気を変えていきたいと感じている人 より良い職場環境を作りたいと願っている方

子どもたちのために、今こそ変わろう

大切に子どもたちを育み、守り続けてきた職場が、より居心地の良い場所になり、大人同士の関係性の背中が子どもたちに良い影響をもたらす環境になるよう、一緒に貢献していきましょう。

子どもたちは、大人の関係性を敏感に感じ取ります。大人がお互いを尊重し合い、支え合う姿を見せることで、子どもたちにも思いやりの心が育まれるのです。

今、あなたにできることから始めませんか?

まずは自分自身の言動を振り返ること。そして、正しい知識を身につけること。小さな一歩が、やがて職場全体の大きな変化につながっていくはずです。ハラスメントのない、みんなが安心して働ける保育現場を目指して。子どもたちの笑顔のために。今こそ、行動を起こす時です。

▼詳細やお申し込みはこちらから
👉https://hoiku-communication.com/harassment_online_info2025/

🌿担当講師:松原美里

北海道網走市生まれ。横浜女子短大 保育科を卒業。

保育士資格・幼稚園教諭二種免許取得。

横浜市の保育園~川崎市の児童養護施設にて保育に携わる中で、

子どもにとって大切な存在である親のサポートの必要性を感じ、退職。

「大人が輝く背中を見せる」ことの重要性を感じてコーチング(米国認定コーアクティブコーチ資格)・

心理学・NLPを学び、2007年よりUmehanaRelationsを設立する。

保育の視点を子育て支援に生かすAllAbout「育児の基礎知識」ガイドのほか、子育て支援講座、監修・三幸学園千葉校にて、保育原論・児童心理学等を担当。

大阪での虐待事件の背景に、「一番近くにいる保育士にこそ、コーチングを役立ててもらいたい」と、2008年より保育士向けコミュニケーション講座を定期的に主催。

幼稚園での保護者対応研修・広島での保育士研修・島根県での再就職支援講座等を皮切りに、講師としての活動を開始する。

2011年~2016年までエクレス保育園~認定こども園エクレス保育園部施設長。

2019年より保育コミュニケーション協会 代表。保育士キャリアアップ研修マネジメント等担当。