子どもを取り巻く環境変化とチームの葛藤──変わりゆく保育の中で
保育を取り巻く環境は、この数十年で大きく変化してきました。
戦後の「預かってもらえると有り難い場所」から始まり、集団での保育、女性の活躍推進、保育園の増加、そして少子高齢化──。
そして今、保育の質を高める取り組みへと、社会全体が動き始めています。
でも、その変化の中で、保育の現場ではさまざまな戸惑いや葛藤が生まれているのも事実です。

Contents
これまでしてきたことがNG!? 戸惑いと自信喪失
「これまでやってきたことが、急にNGだと言われても…」
そんな戸惑いの声を、あちこちで耳にします。
管理型から主体性尊重へ──社会の変化に合わせて、保育のあり方も変わってきました。
かつては「きちんと」「みんなで一緒に」が当たり前だった保育が、今では「子ども一人ひとりの主体性を尊重する」ことが求められるようになっています。
長年保育に携わってきたベテランの先生ほど、「これまでの自分は間違っていたの?」と自信を喪失してしまうことも。
でも、それは決して「間違っていた」のではなく、時代とともに保育の考え方が変わってきた、ということなのではないでしょうか。
給食をはじめとする日常の意義を見直す段階
給食の時間、お昼寝の時間、おむつ替えの時間──。
保育の中で「当たり前」だと思っていた日常の場面を、今、改めて見直す動きが広がっています。
たとえば、給食の時間。
「みんなで一斉に」「残さず食べる」ことが美徳とされていた時代から、「一人ひとりのペースで」「無理に食べさせない」へと変わってきました。
0・1・2歳児保育においても、「あたりまえ」を見直すことで、保育の質が上がってきた事例が報告されています。
日常の何気ない場面にこそ、子どもの育ちを支える大切な意味がある。
そのことに気づき、見直していく作業は、保育者にとって大きなチャレンジでもあります。
<参考文献>
足立区教育委員会就学前教育推進担当、伊瀬玲奈
『0.1.2歳児保育「あたりまえ」を見直したら保育はもっとよくなる!──足立区立園の保育の質が上がってきた理由』(Gakken保育Books)
子どもとのかかわり方を模索する
「ダメ!」「早く!」「ちゃんとして!」
ついつい使ってしまう言葉を、肯定的な言葉掛けに変えていく。
子どもに指示するのではなく、一緒に考えるコーチングアプローチを取り入れていく。
言葉では分かっていても、日々の忙しい現場の中で実践するのは、簡単なことではありません。
でも、少しずつ意識を変えていくことで、子どもとの関わり方が変わり、子どもたちの表情が変わり、保育の質が変わっていく。
そんな変化を、多くの園が実感し始めています。
主体性…!? 子どもの育ちを支える専門性の意味は?
「子どもの主体性を尊重する」
この言葉は、今や保育の世界では当たり前のように使われています。
でも、「主体性って、具体的にどういうこと?」「何でも子どもの好きにさせればいいの?」
──そんな疑問を抱えている保育者も少なくありません。
子どもが中心の「共主体」の保育とは、子どもに任せきりにすることでも、大人が管理することでもない。
子どもと保育者が、一緒に考え、一緒に作り上げていく保育のあり方です。
そこには、子どもの育ちを見守り、支える保育者の専門性が求められています。
「何でもいいよ」ではなく、「この子にとって、今、何が必要か」を見極める力。
「待つ」「見守る」ことの意味を理解し、実践する力。
それが、これからの保育者に求められる専門性なのかもしれません。
<参考文献>
大豆生田啓友『子どもが中心の「共主体」の保育へ: 日本の保育をアップデート!』(小学館)

仕事量の多さに疲弊してしまうのも、不適切につながっている!?
保育の質を高めたい。子どもたちと丁寧に関わりたい。
そう思っていても、日々の仕事量の多さに追われて、心に余裕がなくなってしまう──。
書類作成、行事の準備、保護者対応、会議…。
子どもと向き合う時間を大切にしたいのに、それ以外の業務に時間を取られてしまう現実があります。
そして、疲弊した状態で子どもと向き合うとき、ついつい不適切な関わりをしてしまう。
これは、個人の問題ではなく、保育現場全体の構造的な問題なのではないでしょうか。
保育の質を高めるためには、保育者が心身ともに健康で、余裕を持って子どもと向き合える環境を整えることが不可欠です。
変化の中で、大切にしたいこと
保育を取り巻く環境は、これからも変わり続けていくでしょう。
その変化の中で、戸惑い、葛藤しながらも、保育者一人ひとりが学び続け、成長し続けていく。
そして、園としてチームとして、「子どもたちにとって、何が一番大切か」を問い続けていく。
かつての保育を否定するのではなく、良いところは残しながら、新しい保育のあり方を模索していく。
そんな柔軟な姿勢が、これからの保育現場には求められているのかもしれません。
変化は、時に苦しく、不安なものです。
でも、その変化の先には、子どもたちのより豊かな育ちと、保育者自身のより深い専門性が待っているはずです。
一人で抱え込まず、チームで語り合い、支え合いながら、一歩ずつ進んでいきませんか?
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